他は是れ吾にあらず


 回生薬局代表で漢方家の平野智也が、
健康のこと、歴史のこと、文化のことなど、日々感じたことなどを連載しています。
Vol.10 他は是れ吾にあらず
春になりました。我が社にも大学を卒業し、新社会人になった新入社員さんをお迎えします。

お迎えする我々もフレッシュな気持ちになれるので、とってもありがたいことです。

これから社会に出る新入社員さんは、

こんなことをしてみたい!あんなことをしてみたい!

と色んな夢や希望に満ちあふれています。

そんな気持ちを僕たちも大切にして、働きやすい環境を作ってあげなくては!

と決意を固めるのですが、

それと同時にベテラン社員さんの素晴らしさについても毎年話をすることにしています。

 

曹洞宗の宗祖で名高い道元禅師の言葉です。

「他は是れ吾にあらず」(たはこれわれにあらず)

「更に何れの時をか待たん」(さらにいずれのときをかまたん)

その昔

夢と希望に満ちあふれた若き道元禅師が、1223年に中国の宋に留学して、

修行先の寺を訪れたときの話です。

道元禅師は、大変に地位が高い老僧がギラギラと太陽の照りつける暑い中を、

黙々と茸を干している姿を目撃します。

若者でもすぐにへばってしまいそうなくらいの暑気の中、腰の曲がった高齢者には過酷な作業です。

それを見かねた道元禅師は「そのようなことは寺の小僧にでもやらせたらどうですか」と声をかけるのです。

するとその老僧は黙々と作業を続けながら 「他は是れ吾にあらず」(他人にまかせたら自分の修行にはならない)

と言うのです。

それに驚いた道元禅師は「しかし…なにもこんな暑さが厳しい時にやられなくてもよいのではないですか?」

と問いかけます。

するとさらに老僧は…

「更に何れの時をか待たん」(やる時は、今の時をおいて他にないからだ) と答えたのです。

 

“これは自分の仕事であり、暑いけれど…暑いからこそ、今茸を干さずにいつ干すのだ?”と淡々と言ったのです。

この言葉に、若き道元禅師は大変感動して大きな教えを得るのです。

 

私たちは ひとりひとり他人にゆずることのできない、かけがえのない人間であると同時に、

そのひとりひとりの仕事や分担もすべて修行と心得て過ごしていきたいものです。

そしてそれをやるのは今をおいて他にないのです。

 

人間だれしもつらいことがあるとすぐ環境や他人のせいにしたり、後回しにしたりしてしまうことがあるものです。

自分に与えられた大切な仕事や社会的役割には、

黙々と打ち込んでいけることが社会人としての大切なことではないかと思います。

 

新入社員さんには、夢と希望を膨らませつつ、黙々と日々の仕事に打ち込んでいる

ベテラン社員さんの後ろ姿にも学んでほしいなと願っています。

愚陀仏庵女性の写真 

 

 

道元

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2013.04.09平野智也